10年後になくなる仕事

ぼくが運営するインターネット恋愛相談室には

日々、種々様々なご相談が寄せられるのですが

このところ、どういうわけか恋愛以外の相談が散見されます。

コールセンターでオペレーターとして働く派遣社員の片岡麻衣さん(30歳)は

地方在住だそうです。

その県には某大手企業各社のコールセンターが数か所あるみたいです。

理由を訊くと最低時給が東京にくらべて低いので、

オペレータ―の人件費が安く抑えられるからとのこと。

二月に入り

麻衣さんは土日と合わせて火、水、木と有給休暇を取って

十年ぶりに上京したようですが、

急に地元に戻りたくなくなったと言って

ぼくの相談室にひょっこり訪れたのでした。

十年ぶりの東京に来てなにが驚いたかというと

まず、中国人の多さに驚いたといいます。

「コンビニに入ったら店員もお客さんもみんな中国人なんですよ」

まあ、たしかにそういう店もあるでしょう。

麻衣さんの地元では中国人は珍しいという。

「じつは勤めてるコールセンターも

数年後には中国に移転するっていう話があるんです」

もはや日本人じゃなくても日本語ができればOKなわけだ。

麻衣さんは羽田空港からモノレールに乗り浜松町駅からJR線に乗り換え

どの駅で降りどこをどう歩いたのか、よく覚えていないという。

とにかく東京は大きいということを盛んに話していた。

行けど行けども街なのだ、街が途絶えたかにみえても

また少し歩けば、巨大なビル群に遭遇する――。

東京の冬は寒いという

地元ではマフラーや手袋なんてしたことがないそうだ。

「寒いとは聞いてたんですけど、ここまで寒いとは思いませんでした、

生まれて初めてマフラーと手袋を買いました。あははは」

大型の旅行用スーツケースはホテルに置いて

ショルダーバッグ一つを肩から下げた・・・

ある私鉄の駅にて。

路線運賃表を長い時間かけて見上げながら、やっと切符を買ったかとおもうと、

こんどは自動改札の前で立ち止まりまごついている。

駅員はその一部始終を黙って見ていたが、切符を入れてゲートが開くと

興味がなくなったようにどこかへ行ってしまった。

ホームに降りるとすぐ、麻衣さんを待ちわびていたかのように

やけに艶のある真っ赤な特急電車が滑り込んできた。

窓から覗いた感じでは車内には空席が目立つ。

車両の両端にあるドアから入って

切符の番号を確認すると窓際の席だった。

「お弁当もビールも買ったし」

足りなければ車内販売で買えばいいだろう。

出発から一時間近くはやはり街が続いていた。

やがて畑や一戸建ての住宅が目立ち始めると

山々が遠くに見えてくる。

麻衣さんの地元には山はないそうです。

にわかに山登りの欲求が出てくる。

特急電車は人家がまばらになると今まで以上に速度を増してきた。

途中、いやに幅の広い淀んだ川の鉄橋を雷鳴のごとく轟かせて越えていき

そして地下鉄よりも長いトンネルを忘れた頃にぬけ出すと、

さっきまでの晴天はどこへやら

鉛色の空に、黒い雲が途切れ途切れ低く流れている。

かつて教科書かなにかで目にしたことのある

中国の水墨画に出てくるような

起伏の激しい急斜面の山が間近に迫っていた。

また短いトンネルをいくつかやり過ごすと

車両から見下ろす位置に畑があり、ドライアイスでスモークを焚いたように

雲が低くただよっている。

「きっと觔斗雲はこういう発想で生まれたんだろうな」

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