穴場的スポットでの自己発見

ここは都心から私鉄に乗って1時間ほどの町であった。

たいして距離があるわけではなかったが、畑や田んぼが広がる農村といった風景である。

町といったが、村、いや部落といったほうがいいほど人口は少なかった。

駅は各駅停車しか停まらなかったが、利便性は悪くないはずだ。

しかし、この町はなぜか宅地や産業の開発がされておらず人知れぬ場所といえた。

駅前には、郵便局と交番があるだけ。

コンビニはなく、あるのは、

営業しているのかいないのかわからないようなタバコ屋が一軒あるだけだった。

その男は疲れていた、肉体的な疲労なら家でごろ寝でもしていればいいだろうが、

精神的な疲れとなるとそうもいかない。

やはり旅行などにでも出てリフレッシュしたほうがいいかもしれないが、

男はそういう嗜好を持ち合わせていなかった。

金銭的な余裕がないわけではないが、スーツケースをゴロゴロと引っぱって

新幹線や飛行機に乗るというのは、計画を考えるだけで面倒臭くなってしまうのだ。

もっとお手軽に、旅を満喫したい・・・。

日帰りで、できれば半日で行って帰ってこれたら最高だ。

ネットでちょいちょい調べていたが、そんなところはやはり人気スポットであり

人で年がら年中ごったがえしているものだ。

ある日の朝、

私鉄の閑散駅を特集しているサイトを偶然に見つけ、なんとはなしに閲覧していると

まさにうってつけといった風景の画像が掲載されているじゃないか。

男はいてもたってもいられず、身支度をすませると駅に向かった。

ふだんは使わない私鉄に乗り込み、数駅先のF駅で乗り換える。

そこからさらに電車に揺られること20分、目的の閑散駅に到着した。

プラットホームに降り立つと、乾いた風がやさしく出迎えてくれた。

降りた乗客は男以外にいない。

新緑の季節で太陽はまぶしさがあるが、灼熱の光線は放っていなかった。

自動改札を抜けると、ロータリーになっているが、ひとっこ一人いなかった。

忘れ去られた町・・・

いや、いままで一度も人々に記憶されたことのない町・・・

人生にもそんな時間があるのだろうか。

男はふと過去を回想してみた。

半世紀を生きて来て、思い出もなにもない時代があっただろうか。

いまから20年前

あの頃はなにをやっていたろう・・・

男はロータリーに佇みぼんやりと追憶した。

男の生い立ちはあまり芳しくはなかった。

いままで紆余曲折あって、転職も数えきれないくらいしている。

大きな借金をして、食うに困ったこともある。

でも、一度も他人から恨みを買うようなことをしたり、

犯罪にも手を染めず、いままでやってこれた。

それは、じつに素晴らしいことだよ――

駅前のシンプルすぎる風景が、男に賛辞を送っているようでもあった。

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