あの時もっと・・・

U子さん(31歳)は大学院修士課程修了後に入った食品会社に勤める研究員です。

学生時代は勉強に明け暮れ、入社後は夜遅くまで研究室に入りびたり

休みの日は夕方まで寝ている。

食事はカップ麺やコンビニ弁当ばかりという生活が続いており

いまだに男性とは恋人同士としてつき合った経験はありません。

こう聞くと野暮ったいリケジョを思わせますが、

どちらかというと美人な方で男性からの

アプローチには事欠かないタイプでした。

しかし、残念なことに

ある意味で天然なU子さんは男たちからの

好意に気づかずにいるようです。

あるとき出入り業者の営業マン(28歳)がU子さんに一目ぼれして

熱烈に誘いはじめました。

営業マンは体育会系でいかにも単細胞なスポーツマン

といった表情をしています。

営業マンの好意はあからさまでしたので、

さすがの天然U子さんにも真意は理解できたのですが

U子さんは最初とまどいました。

迷惑とすら感じました。

というのも体育会系の “ あのノリ ” が大嫌いだったからです。

静かに仕事をしたいのに・・・ 周りの目も気にしないで。

くわえて営業マンのルックスにもなんの魅力も感じません。

ある時など自分の携帯番号とLINE IDの書かれた名刺をこっそり渡してきたりもして。

出入り業者の分際で何を考えているのだろうと思い、

すぐにその名刺は捨てたそうです。

U子さんの好みは知的な白皙の美男子でした。

学生時代には、そんな先輩が一人いたみたいですね。

先輩はU子さんを見かけると声をかけてきて

何回か学内のカフェで一緒にお茶も飲んだそうです。

いつも自分のプライベートな事とか親し気に話してくる

華やかな経験のある先輩とは違い

勉強ばかりだったU子さんは自分が何を話していいかわからず

黙っていることが多かったそうです。

でも、近くにいるだけで心は緊張に震えるから、

それを相手に悟られまいと意識して、

わざと冷静でそっけないような態度をとってしまったかもしれないと話してくれました。

結局、その先輩とは二人で学外に出かけるような仲になる事もなく、

U子さんとは連絡先も交換しないまま卒業していき

いまはどこで何をしているのかも知らないとのことでした。

熱烈なアプローチが始まってから数か月が過ぎたころ。

営業マンは研究室に納品に来るたびに相も変わらず

お菓子だなんだとU子さんに差し入れを持ってきます。

そして無理に楽し気な雰囲気を作って話しかけてくる営業マンを

U子さんは、いつからか不憫に思いはじめたようです。

さらに月日はめぐって、

だんだんと心ひそかに憎からずと思うようになり、

やがて営業マンが来るのを心待ちにしている自分に気づいた頃・・・。

その日は、いつも一人でくる営業マンは新人を連れてきてました。

トイレに行こうとしたU子さんは営業マンの二人が

室長に深々と頭を下げて引き上げていくのを

長い廊下の向こう側で見かけました。

その時は、きょうは珍しく話しかけてこなかったけど

新人教育をしてたからかな? と思ったそうです。

数日後、きょうは体育会系の営業マンがくる曜日。

でも、“ 彼 ” は来ませんでした。

来たのはこの前の新人です。

U子さんがいつもの人は? と聞くと新人は

退職しましたので今日から私がこちらの担当になります

今後とも弊社をよろしくお願いいたします。

と事務的に言うばかりでした。

新人が帰ったあと室長が

これで心配の種がなくなったんじゃないか? と

言葉を濁しながらU子さんに聞いてきたらしく、

こんどの担当者には行儀よくするよう

先方の営業部長に釘を刺しておいたからとも話していたようです。

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