盆暮れ正月のない豚

社畜のあなたは騙し騙され続けた、贋の働き者

あなたは、自分が社畜であるのは

自己実現の途上にいるからだと思い込もうとしているにすぎない。

ブラック会社にしがみついてるあなたは、社畜になるより他に自分の欲求を

満たす方法がわからないだけ。

いつか報われる、いつか楽になれる、

いつでもこんな会社辞めてやる、

独立、起業、おれだって金さえあれば……

そんなふうに時おり、愚にもつかない夢想に耽ることもあるでしょう。

もう、わたしは聞き飽きたけど。

でも次の日からは、夢想したことなどきれいさっぱり忘れて、

がむしゃらに、ほとんど何も考えない状態で勤労するんでしょ。

そして、五年後も、十年後も、二十年後も

うまい具合に飼いならされて強制労働に従事してしまうはず。

一度でもブラック会社にマインドコントロールされてしまったら、

そう簡単に幸せになんかなれやしない。

生涯を自ら閉ざしてしまった時空の中で、

自ら何かを決めたつもりになって、右往左往するのが関の山だわ。

あなたが学生時代の友人に会ったときに見せる饒舌さには閉口するのよ。

残業や休日出勤の多さなんか聞かれてもいないのに

滔々と「まいっちゃってさ」なんて言いながらも、心は躍っている・・・。

その永遠に報われることのない苦心惨憺ぶりを

世間をはばかる遠慮からか深刻さを土台にしながら、

その実、つい本心の笑顔が出てきては熱く語ったりしてしまう。

あの時、M君から「おい、マジでやばいな、その会社」なんて言われたら

待ってましたと、飛び上がらんばかりの上機嫌だったじゃないの。

たぶん、自分が類稀なる社畜であることを誇示することで、

承認の欲求を満足させる方法を捜しているのでしょうね。

そんじょそこらの社畜とは格が違うのだよ、と言いたいのよきっと。

でも残念なことに、あなたはその事に無自覚なの。

「メンタル診断の結果なんですけど。たいした症状ではないですが、

やや他者から認められたい傾向が強いとの指摘がありました」

たしかに人からの評価や反応は気になるわね。

ある日、あなたは通勤の途中、いつも立ち寄るコンビニで、

いつもの女性店員にレジをやってもらったと言っていたじゃない。

そして、なぜか彼女が今朝にかぎって、

小さく「おはようございます・・・」と言うのを

うっすらと聞いたような気がしたと話してて。

あなたが彼女のことを好きだから

都合よく聞こえた空耳とも考えられるけど、

「おれ、彼女が好きだったのかな・・・自分でも、はっきりしないけど」

もし彼女が現実に言ってたとしたら、これは本当に両想いになるんじゃないかって。

会社に着いてからも、そのことで頭がいっぱいになったとすれば、

――もし、それで少しでも仕事が手につかなくなったとしたら、

あなたは社畜から脱却するチャンスをつかんだのかもしれない。



天才的な社畜というのは、基本的に自分のための時間はないはず。

これは趣味やレジャーに使う時間という意味はもちろんのこと、

食事や睡眠といった生理的な時間や

運動や風呂など自分をメンテナンスする時間もよ。

だから家に帰ったとしても炊事をしないで

インスタント食品とコンビニ弁当をエサとして短時間で摂取してる。

もしかしたら、あなたもそうかもしれないわね。

洗濯は全自動の乾燥機付きとクリーニング屋、これは別に問題じゃない。

だってこれは、人間だってそうなんだし。

問題はというと、お風呂。

たいていシャワーだけで何年も湯舟に浸かるということがない。

はっ、まったく、どうりで臭いわけだわ。

まぁ、そのほうが、かえって社畜らしいと言われればそれまでですけど……。

体形はどうでしょう。

あなたは、ここ最近、自分の全裸姿というものを

姿見かなんかに映して見たことはあるのかしら。

あなたが三十代、四十代ならありふれた体形でも、

あなたは、まだ二十代のはずでしょう――。

立派なくらいお腹は出て筋肉は衰えているのかもしれない、

学生時代のダビデ像のような惚れ惚れするボディはどこへ行ってしまったのかしらん。





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