傍若無人な面接担当者

「ずいぶん、待たせるけど。次で呼ばれなかったら帰ろう……」

控室に顔を出した担当者は、

すかさずこんな彼女の居心地の悪さと不信感に気づき、

並みいる応募者の中から彼女を面接室に招き入れた。

担当者の質問は的確だった。というより的確すぎて、

手のひらで転がされているようで不愉快だった。

『相手にペースを握られてしまったら負けだ』といった

本能的な警戒心から

彼女は言葉をできるだけゆっくりと発音し、考える時間をかせいだ。



しかし、魯鈍な女と思われるのも癪に障るので、

「こんなこと、ほかの方にも質問をされてるんですか」

と、いかにも心外だといった調子で訊いてみた。

「それは……」と担当者は1オクターブ低い声を出して口ごもった。

そこで質問の激流は干上がり、場の空気はたちまち腐敗しだした。

彼女は上着のポケットに入っている、

くしゃくしゃに丸めたコンビニのレシートの感触を

右手首に感じながら、さらに自分から何か訊いてみようと試みた。

『何か、とにかく、そう、なんでもいい――』

「あの、わたしは人間関係の軋轢が苦手なんです。

いままで何度もそれで挫けてきて、その度に会社を辞めてきてしまったのですが、

御社の職場の雰囲気とか、どんな感じなんでしょうか」

こんなことは通常、

面接では言うべきことではないかもしれない。

だが――

そのとき彼女のスマホにメールの着信があった。

それを知らせるバイブレーションは

ちょうど担当者が何か言い出そうとする前に、おどけた調子で響いたので、

出鼻を挫かれた中年男は、再び黙り込んでしまった。

彼女は『なんか、様子がおかしい気がする』そう思ったまま

投げやりな気持ちで、沈黙を受け入れてしまったのである。

夕暮れ時、面接会場となっていた古い雑居ビルをあとにした彼女は、

家路へと急ぐ途中で、はやく結果を知って解放されたいという心境になった。

まちがっても採用されることを期待したわけではない。

しかし、あれからついに一か月が経過しても、応募した会社からは何の音沙汰もなく

不採用であることは自分で決定するしかなかった。

この数か月の各社面接で、彼女は面接担当者に

特別な好意を持たれないようにする

スキルが身につきすぎてしまった自覚がある。

普通の求職者なら、いかに面接担当者の関心を買おうかと腐心するものだが

彼女にとってそれは命取りとも言えるものだった。

『この女を我が物にしたい』といった欲望――

面接担当者が

もしそんな衝動にかられだしたら、

たとえ人事部長の目がどんなに鵜の目鷹の目だったとしても、

走り出した暴走機関車は止まってはくれないだろう。

たとえば、車に乗って自宅近くで待ち伏せし、

どこかのホテルに引っ張りこもうとするかもしれない。

そんな時は迷わず警察に通報すればいい。

しかし、現実にそんな事態になったら身がすくんでしまい

手も足も出なくなってしまうかもしれないが……

たとえ採用する会社と求職者という関係にあっても、

面接だからと流れに乗じて不必要なことまで根掘り葉掘り質問していいとか、

採用と引き換えなんだから求職者に飲食店で

奢ってもらうのは当然だという考えは、不届き千万だと思います。

まともな企業として、やらなくてはならない面接担当者の教育としては、

必要もないのにもっともらしい理由をつけた質問をしたり

遊興費などを絶対に要求するものではないと、

新入社員のころから叩き込んでおくことでしょう。

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