ブラックバイトの予感

応募の手続きや面接の際に

その担当者が書いたメールや、発した言葉からも雰囲気が出ている。

カラオケだったら、声そのものから伝わるものがあったり

ダンスなら、その人ならではの動きがあります。

真似事はしょせん真似事で、そこには本物が伝わってくる雰囲気はない。

なぜあの店は、あなたの店と違ってバイトが辞めないのか。

立地も時給もあなたが働いている店とそんなに変わらないのにです。

表面的な内装とかメニューなどは評判の良い店の真似をしました。

真似のほうがそれっぽかったり、はじめは好印象に見える。

「おしゃれなカフェだから劣悪な職場環境ではないだろう」という

先入観――。

ただそれだけの理由で、なんとなく応募してしまう。

バイトをするときに、そういうイメージだけで大した考えもなく始めてしまう。

こういうことは案外とあるものです。

もっと原点に立ち返って、なぜカフェのバイトをするのか考えてみると、

カフェでバイトをするメリットというのは、

接客と飲食店経験を積めることにあるのだと言えます。

昭和の頃、都内のジャズ喫茶ではコーヒー1杯で3時間ねばる

ということが当たり前の光景でした。

平日の昼間から薄暗い店内ではタバコの煙が充満して

大音量で1950年代の録音を中心としたモダンジャズが鳴り響いている・・・。

お母さんが掃除や洗濯をしたり、子どもたちが学校で勉強をしたりする時間に

それらとは無縁な異空間が、そこには繰りひろげられている。

そうして日が落ちたらテーブルの一部を片付けて、

こんどは自分たちで楽器を鳴らして、ジャムセッションを始める・・・。

それは、夜が白むまで終わることがなかった……。

ジャズが好きならいいのですが、

そういう店で長期間バイトしても、前述の勉強にはならないと思います。

ブラックなカフェのバイトを辞めてみると事実が見えてくる。

まじめに考えすぎる人は、他のバイトをしようとすれば一人でできるのに、

バイト情報サイトに頼らないと不安を感じてしまう。

そしてサイトの担当者に頼ってばかりいると、

やがて今の店に辞職を申し出るのも億劫になる。

担当者にむかって『代わりに退職手続きをしてくれ』という気持ちが出てきてしまう。

なんとか自力で辞めてみると、時給も安くて自分にとって

何の勉強にもならないと思う店に、どうしてあそこまで気を使い、

無理なシフトにも我慢して、なんで店長を恐れていたかが不思議になる。

でも店に通っている時にはそれが分からない。

バイトにとって都合が悪いだけということは、

もしかしたら

使う側にとって都合がいいだけということかもしれない。

店のほうが高飛車なことも奇妙な感じだ――。

『こんなおしゃれなカフェで働けるんだからありがたく思え』

といった言い草である。

使う側に利益を与えているバイトが、

利益を得ている使う側に不当に隷属している。

雇用主から搾取されている時には、どうしても事実が見えない。

思い切って辞めてみると、

「なんであんなに安くこき使われてたんだろう」と狐につままれた気分になる。

しかし、こうした仕組みは辞めてみないと体感できない。



……こうしておれは今、時代錯誤の純喫茶で店番をしているわけである。

近所に買い出しに出かけた店長は、なんだかしらないけど、

いつも2.3時間ばかり帰ってこない。

客足は少なく毎日ガラガラだった。

店長がやたらと前職のカフェのやり方について根ほり葉ほり訊いてきたが、

おれは店長がなぜそんなことを知りたがるのか真意が測れなかった。

新しい店でバイトを始めた頃はとくに不満もなく、

店長はおれの学生生活などにケチをつける様子もなかった。

そんなある日の昼下がり

おれは店長と、とりとめのない雑談をしているときに、

この店に大がかりな改装計画があることを知らされてしまった。

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