現在無職のおれは、きょうも昼過ぎに目を覚ました。
世間様は10連休のゴールデンウィークを満喫しているのだろうが、
毎日が日曜日のおれはそれ以上に桁外れな、食いたいときに食って、
寝たいときに寝るといった、常識的にいえば怠惰といわれるような生活をおくっていた。
「そろそろ、貯金も尽きてきたことだし、仕事を探さなくちゃなあ」
誰がいるわけではないが、いちいち言葉にしてつぶやいた。
独り言はよく言うほうだろう。
そうしないと、丸一日しゃべらない日が続くことになる。
あまりそんな状態が長いと、話す筋肉が衰えて口がきけなくなって
しまうんじゃないかという不安もあった。
やはり日ごろから鍛えてないと、何ごとも退化してしまうものだ。
独り言の癖がつくというのもあまり関心できないが、
この日もゴニョゴニョ言いながら、ヤカンを火にかけて湯を沸かす。
それから半年前に不動産屋でいま住んでいるアパートの更新手続きをした時にもらった、
緑茶のティーバックをマグカップに入れた。
お湯が沸騰するまで、久しぶりにテレビを観ようかとも思ったが、
この建物は電波の受信状態が悪いらしく映像が鮮明ではないことを思い出し、
いつものようにパソコンでYouTubeを見ることにした。
パソコンを立ち上げてブラウザを起動させると、求人サイトの広告が目に入った。
なんとはなしにクリックしてみると、悪くはない募集内容じゃないか。
おれは湯が沸騰しているのをそのままにして、その企業の応募フォームを軽く確認してから
住所、氏名、年齢、電話番号、メールアドレスなどの個人情報を入力しだした――
履歴書と職務経歴書を求められているので、
今年になってから用意したそれらの内容を確認する。
問題ないので、きょうの日付に変更して『平成31年5月7日』よし、大丈夫……
pdfに変換したものをフォームに添付して、『応募する』をクリック――
「さてと、お茶お茶~」
さっきから湯気を吹き上げて、
ガタガタ言い続けているヤカンを鎮めにキッチンへと向かった。
お茶をすすりながら、YouTubeをしばらく見てると本屋へ行こうと思いたつ。
おれはシャワーを浴びてから、街へ出た。時刻は午後4時をすぎたところ。
わりと小ぶりなK書店は学生らしき客が二人ほどいるだけで暇な空気が漂っていた。
ビジネス書が平積みされているコーナーに行くと、『平成から令和へ』と
売り出し中の書籍を紹介するポスターが貼りだされている。
「令和か・・・あ、やっちまった」
おれは、応募書類を送信した時のことを思い出して
腰が抜けそうになってしまった・・・