ホテルで浮気調査

浮気調査をするため、新人探偵の古田彰久はクレイドンホテルに到着した。

彼は大学生の頃、起業セミナーなどに熱心に参加していた。

そこのメンターからは

「男として生まれたからには、金を稼がなくては生きる価値はない」と

口を酸っぱくして叩き込まれていたものだが、

あるときそれが急に無味乾燥したものに思えるようになった。

就職するにしても、ちょっと変わった仕事がいいだろう。

彼は起業とは180度方向転換ともいえる進路を取るつもりだった。

大学卒業後は探偵学校に通いながらコンビニバイトなどいろいろ経て

とうとう興信所に就職してしまったのだ。

そして、これが初の単独での仕事だった。

柔軟性、情熱、冷静沈着かつ勇猛果敢な

彼の性格を所長に買われこの重要な任務についた。

きょうはこの部屋に泊まり本部から作戦の指示を待つことになっている。

古田はそわそわした、それまでどう時間をつぶすか、

とりあえずテレビをつけて眺めてみるが、何も頭に入ってこない。

しばらくするとノックの音が聞こえた。

ルームサービスは頼んでないので同僚が来たのだろうか。

ドアを開けると女が立っていた。

年は20代後半に思える、ほっそりとした美人だった。

「どちら様でしょう」

古田は警戒した。

何者だろうこの女は・・・。



「浮気相手のことが知りたいんじゃないですか」

いきなり単刀直入なことを言って

ハンドバッグから一枚の写真を取り出した。

「これをご覧ください」

「この人がなにか」

スーツ姿の男が写っているが見おぼえはなかった。

「じつは、この人が仕掛け人なんですよ」

「あなたはいったい・・・」

そう古田は言いかけて携帯電話で応援を呼ぼうとしたが

女は彼の携帯を手ではたき落とすと身をひるがえして

廊下を駆けて行った。



後ろから怒鳴る。

「ちょっと待ちなさい、いきなり何をするんだ」

「ふふ、やっぱりあなた興信所の人ね」

女は立ち止まって振り返ると不敵な笑みを浮かべていた。

「あなたは・・・」

「誰だっていいじゃない。ではごゆっくり探偵さん」

そういうと女はエレベーターの方へ悠々と歩きだした。

古田は女についていき

「あなたをこのまま帰すわけにはいかない。事情を話してもらえませんか」

「お断りします」

女は毅然とそういってエレベーターに乗り込んで行ってしまった。

これでいいのだろうか。いいはずがない。

腕時計を見るとまだ夕方の五時を回ったところだった。

部屋に戻ろうとしたが、カギを持ってないことに気づいた。

ドアノブに手をかけたが、案の定うんともすんともいわない。

部屋のスリッパのままでフロントのある一階までエレベーターで降りた。

フロントに行くとさっきの女が制服を着ているじゃないか。

「あ、あなたはここの従業員だったのですか」

「はい、そうですが、何かご用でしょうか」

女はホテルのスタッフとして何事もなかったかのように接するばかりだった。


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