田舎で開業した時の問題点

麻美は繁華街に店舗を構えるというのではなくて

もっと気楽に自宅で何かできないかと考えた。

そしてプリザーブドフラワーの教室を始めた。

もともと、好きとか得意だったというわけではなく

とにかく、なにか自分でお店をはじめよう思ったのだ。

ネットで調べること数週間

「そうだプリザーブドフラワー教室を開こう」

と簡単に決めた。

都内の有名な教室に通い、ひと通りの知識や技術を身につけると

すぐに自分の教室を開講してしまった。

教室と言っても自宅のリビングキッチンである。

麻美が住んでる自宅は

住宅街から離れ田畑に囲まれた築150年をこえる屋敷だった。

敷地には教室がある大きな母屋と

平成になって建て替えられた離れが二棟ある。

それとトラクターなどの農機具も合わせると車が4台停められるガレージもあった。

田舎だからというのもあるが、

この近辺にはそういう屋敷が何軒も残っていた。

教室としてのスペースは母屋の30畳である。

ここに隣町の公民館からもらってきた折りたたみ式の長テーブルを4台置いた。

これは公民館の軒下に長らく放置されていて

麻美が車で通るたびに目についたものだった。

直接、公民館の理事長に電話してみると、

「ああ、あれね。捨てるにしてもデカいからお金がかかるでしょ・・・」

処分する費用をなかなか捻出できず仕方なしに置いていたものだという。

タダで引き取ってくれるならありがたいと快諾してくれた。

さらに、理事長みずから2トントラックを出してきて運んでくれたのだ。

教室の設備にかかった金額はゼロである。

教室のある日は生徒たちが来る前に母屋の風呂に入る。

真冬でも髪と身体を洗い終わって湯舟に入るときは

窓を開けて外の空気を入れた。

こうした方が長く湯に浸かっていられるからだ。

とつぜん吹き込んできた冬の風が濡れた髪を冷たくなでた。

風呂場には大画面のテレビがある。

もちろん防水の風呂場専用の設計だ。

麻美は湯舟に入って足を延ばしスカパーの

SF映画を観るともなしに眺めていた。

きのうはお歳暮でもらったワインを

ひとりで2本も空けてしまい、まだ酔いから醒めていない。

だんだん身体が温まって血行が良くなってきたせいか、

頭蓋骨の中で脳が脈に合わせて膨張するような猛烈な頭痛がしてくる。

もちろん飲みすぎもあるだろうが

ワインの酸化防止剤である亜硫酸塩がよくないのだろうか。

脳卒中、脳梗塞、脳溢血、その他、

いろいろな病名が頭に去来しては消えた。

そんなこと考えてどうするのか

そんな病気だったらどうしたいのか

麻美にはわからなかった。

画面の中では、サングラスをかけた黒ずくめの男が

スローモーションで映し出されている。

敵の銃弾が飛んでくると、それを避けるためだろうか

徐々に片腹痛いくらいに大袈裟な体勢で仰け反っていき――。

ストーリーは、

生きていると思って暮らしていた人間たちが

実はコンピューターに支配された現世で

魂の抜け殻となった肉体から生体エネルギーを略奪されていた。

肉体から追い出された魂 “スピリッツ” は

生霊とも無縁仏ともつかない霊魂となって彷徨っているだけだったのだ・・・。

それでは迷わず成仏できないだろうと立ちあがった有志たちがいた。

三途の川で冥界から派遣されてきたロボット軍団どもと

食うか食われるか生きるか死ぬかの血みどろの決戦を繰りひろげる!

というような内容だ。

麻美は何度となくこの映画を観ていたが、いまだに話の筋が理解できない。

ぬる湯に浸かりながらウツラウツラする。

途中、砂利を踏む音を窓の外に聞いたような気がした。

ハッ、と気が付くと

画面の中では大爆発がおこっている――。

そして、ビル全体が紅蓮の炎に包まれるシーンに続いて・・・。

風呂場にある給湯の温度調節器の時計をみると

生徒のみんなが来ている時間だ。

「あ、はやくしなくちゃ」

酔ったまま湯舟で寝てしまい

溺死した人の話などを思い出しながら湯舟から出る。

もう一度シャンプーで頭を洗いシャワーで充分に流した。

依然として画面の中のビルは炎上を続けている。

・・・悲鳴をあげ逃げ惑う人たち。

映画に出てくる車はどれも馬鹿デカいアメ車だった。

登場人物の太いネクタイや、むさ苦しいモミアゲから判断して

70年代の作品と思われた。

そのとき、カチャッとドアが開いて生徒のひとりである

中山正子(62歳)が裸で入ってきた。

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