過去の不倫と訪問者の目的

ある日の昼さがり

D商事にひとりの男が訪問してきた。

営業部の課長に話しがあるという。

「アポイントはないですが、中沢と伝えてもらえればわかりますから」

そう男にいわれ受付の女性は課長に取り次いだ。

課長はきりきり舞いで得意先への電話に対応していたが

受付からの内線電話を取ると、急に神妙な面持ちになった。

(はて、誰だろう?)

応接室に入ると、男は立ちあがり名刺を出してきた。

「Hスタッフサービスの中沢です」

取引を停止した派遣会社が五年ぶりにやってきたのだ。

(なんの用だろうか・・・)

課長は考えたが思い当たらない。

自分は派遣会社の選定をする立場にはないのだ。

「それで、きょうはどういったご用件で?」

「とぼけてもらっては困りますよ」

「……とぼけるって何をです、おっしゃりたい意味がわかりませんが」

「いや、あなたは、わかっているはずだ」

いつの間にか手には拳銃らしきものが握られている。

よく見たところ、どうやら本物のようだ。

課長は鼓動が速くなり嫌な汗をかきはじめたのを感じた。

「まま、ちょ、ちょっと、お話を詳しく伺おうじゃありませんか……」

「ここにいた、松永沙知絵のことは御存知ですよね」

「ええ、うちの課にいましたから――それが」

「不倫の落とし前をつけてもらおうと思いまして」

銃口が課長に向いた。

心当たりがなくはないので、とっさに否定できない。

「まま、待ってください。お金ですか。いくらです」

「バカなっ、ゼニ金の問題じゃないんですよ。あははは」

(クソッ、こいつ、狂ってやがるのかな・・・)

「落とし前って、いったい、わたしはどうすればいいのですか」

「――まあ、ご自分の頭で考えることですな・・・」

男は拳銃に消音機らしきものを取り付け、

わたしの座っている四人掛けのソファに一発発射した。

蹴とばされたような波動が身体に伝わった。

意外にも発射音は大きかったが、この応接室は外部に会話が聴かれないよう

ある程度の防音対策を施してあるので、外にいる者は気づかなかっただろう。

男はドア向かい素早くカギをかけ

床に落ちた薬莢をゆっくりと拾い、上着のポケットに入れた。

なにもしゃべらず、男はスマホを取り出す。

五分ほどの沈黙のあと、やっと課長は口を開くが要点を得ない。

「かなり前の関係ですし・・・その、松永さんは、いまどうしてるんでしょうか」

「いまも、ある会社で、ウチの派遣社員として働いてもらってます」

男は、静かにそう言ったきり、また黙り込んでしまう。

(なんとかしなくては・・・)

「いったいどうしたらいでしょう、いろいろ考えてみたのですが思いつかない」

課長はできる限り明るく言ってみる。

(沙知絵は、この男とできているのだろうか)

「あなたの奥さんに電話してください。当時の事を洗いざらい話すのです」

課長は凝然として黙ってしまったが、

銃を持った男は自分のスマホを差し出しながら囁いた。

「さぁ、すべてを打ち明けるのです」

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