広い駐車場があって大型トラックが何台も停まれる。
とどろき街道には次つぎと新しいコンビニがオープンしていた。
夜――どの店も寒空に誘蛾灯を光らせていた。
男性の集客効果を狙ってるのか
かわいい女の子ばかり採用しているコンビニもあったけど、漬物屋の社長は、
美貌といい、整備の腕前といい、絶対的に中西自動車工業の松島さんを
凌駕するイイオンナはいない、と熱弁をふるうのであった。
助手席の北村は話を眠そうな目で聞いていた。
自動車修理工場といわれただけで、まずスクラップをうず高く積んだ敷地にある、
油臭くて、うす汚いガレージを想像してしまう。
その奥ではラジオが必要以上の音量で鳴り響き
ツナギを着た元暴走族の兄ちゃんが、ガムをクチャクチャ噛みながら
ジャッキアップした車の下にもぐり込んでエンジンオイルを抜いてる……
そんな姿が頭にうかぶだけだった。
そういったところに、一人の女性整備士が働いてるのを考えてみても、
なんだか客商売とは思えないほど愛想が悪くて
いつもイライラしてる、
半分ほど歯がシンナーで溶けた女の風貌しかイメージできない。
「あのさ、こんどタイヤ交換するんなら行ってみなよ」
「……」
「まあ、好みじゃなかったら見積だけしてもらって、
帰ってきても大丈夫だし。もし好みだったら……」
「好みだったら?」
「よし、そうこなくちゃいかん。あそこは中古車の売買もしてるから、
欲しい車種を伝えたりすれば、いろいろ話ができるんじゃないかな。
おまえさん、たしか車を買いかえるって聞いたけど」
「そうなんだけど、いまは金銭的に余裕なんてないんだよなあ」
「よくいうよ貯めこんでるくせして、しょうがねえホラ吹きだな。あははは」
おっさん二人は、こんなやり取りをしながら、
市内へと向かう県道のマロニエ並木をスカイラインGT-Rで走っていた。
冬は終わりそうだが、春休みの前だったので、
マロニエはまだ枯れ木の様相でいる。
パチンコストリートの異名をとる市内へむかう片側二車線の大通りは、
昨夜の大がかりな飲酒運転取り締まり検問の痕跡を残してはいなかった。
あんなにたくさんの男性がいるなかで、なぜその男性を好きになったのか。
どうやら私は美人らしいので、
会社ではもちろん、あちこちで男性にいっぱい話しかけられています。
その中からよさそうな一人と会話をすると
けっこう盛りあがったりする場合が多いんです。
でも、たいていは連絡先の交換は断るし
約束もないまま帰ることがほとんどです。
きょうも話をして意気投合した男とは、その場であっさりと別れ家路を急ぐ。
お風呂に入ってから夕飯を食べて、いつものようにベッドに入ったあとで、
やっぱりLINEくらい交換してもよかったかな・・・
という気持ちが、ふつふつと湧いてくる。
つぎの朝、目ざめるとすぐに後悔が襲ってくる。
いてもたってもいられず、
おなじ時間に、おなじコンビニに行ったけど、あの男はいなかった――。
いるわけないよね。
ふつうに考えて。
なぜ昨日、連絡先を教えなかったんだろう・・・と自分を責めたりした。
どういうわけかコンビニだけに限定して男を探し回って諦めたとき。
買いものに寄った大型ショッピングモールでその男をみつける――。
その男といっしょに、そこのフードコートでお話をする。
なにを話したのかは全然おぼえてないんだけど、
それが男との真実の出会いなんです。
家に帰ってから眠れないというのも、その男と縁があるからでしょう。
なぜこの男とつき合ったかなど、論理的に説明することはできません。
大勢の人がコンビニで買い物をして、そこには無数の接客があるけど、
このところコンビニを劇場とした蠱惑的な出会い方が多発している。
得体の知れない雰囲気・・・どうしても抗えない衝動。
顔がよかったり、スタイルに魅かれたりするのとは、また違った切迫感――。
おれが話しかける女には何かがあった。
何か、具体的にはよくわかんないけど……。
そして、とにかくその女とつき合った。
話しかけたというのは、やっぱり何か縁があるんだと思う。
だからおれは、話しかけた女はかならず口説くようにしているんですよ。