経済的成功をした経緯

その中年男は経済的成功を収めていた。

10代のころは不良だったが仲間とのいざこざや

不法行為による逮捕などに嫌気がさし

20代前半まで家に閉じこもり何もしない生活を続けた。

彼に転機が訪れたのが父親の死。

母親はそれを機に黙って

どこかへ引っ越してしまい行方をくらました。

それまでは、働かなくとも実家でのんべんだらりと暮らしていけたのだが

とうとう自活の必要に迫られてしまった。

青年は家の近くの居酒屋で住み込みの従業員を募集しているのを知り

すぐに履歴書を持って面接に行った。

オーナー兼店長の老人は彼の風体や経歴を見て訝しんだが、

試しに皿洗いを命じてみる。

――意外に真面目にやるもんだな。

老人は独身だった、いままで一度も結婚したことはない。

兄弟など身寄りもなく天涯孤独……。

似たような境遇だと青年に親近感が湧いたのだろう、採用することに決めた。

青年が店の二階の三畳一間に寝泊まりするようになって一年がすぎた頃。

「こんど繁華街に大きな店を出すから

しばらくここはお前ひとりに任せるよ」と老人に言われて

青年は自分の働きが認められたのが嬉しくもあったが

なにか裏があるのではないかとも疑った。

なんの経験もないずぶの素人が、わずか一年で店を任されることは異例であろう。

そんな時、店の常連客が

「このごろ店長さん見かけないけど」

「例の新店のほうが忙しいみたいで」

と青年は答えたが。

老人はいままでコツコツと貯めこんだ全財産を

つぎ込んで繁華街に店を出した。

この店を担保に銀行からも金を借りているらしいが

青年には詳細を知らせていない。

新しい店は繁盛しているらしく軌道にのり始めたとのことだった。

同業者の中には大手チェーン店が軒を連ねる場所に

個人が店を出しても上手くいくはずがないと

バカにする者もいたが老人は聞く耳を持たなかった。

そんな連中だって、分不相応な車を買ってみたり

なかには新築一戸建てを買ってしまうヤツもいた。

どこに金を使うかは人それぞれというものだろう。

パチンコや競馬につぎ込んでしまったり

女性のいる飲み屋に通い詰めて散財するのもいる。

そんな使い方は消費や浪費だが、店を持つのは投資である。

老人は自分の考えに確信を持っていた。

新しい店が軌道にのったら、もう一店舗増やしてさらに・・・

老人は激務のなかに倒れ

病院に搬送されたが帰らぬ人となった。

青年のもとに弁護士が来て言う。

「じつは遺言書がありまして、あなたが相続人ということになってますが」

説明によると

相続した場合は、銀行からの借り入れなどを青年が返済しなければ

ならなくなるが、店は自分のものになるとのことだった。

相続放棄の場合は、またどこかで一からやり直しということになる。


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