みんなとなんか違う自分

この家には

玄関から上がり框をまたいで正面の階段をのぼると踊り場があった。

右手に中二階があり、さらに左手に折り返してのぼると二階となっている。

一階もあわせて中二階と二階の各部屋の北側に窓はない。

というのも、北側にはこの家を建てる前から隣家があり

窓をつくるとお互いプライバシーに問題が生じると考えたからだ。

唯一、通風と採光をかねて踊り場に曇りガラスを入れた小窓を設置した。

( やっぱり、きょうもいた )

小窓の下枠は床から15センチの高さにある。

ガラスの寸法は縦20センチ横40センチ。

これが左右二枚ありつなぎ目の部分にクレセント錠を配した引き違い窓となっている。

外側にはやぶれかかり煤けた網戸があった。

いつものように明日香は踊り場に子猫のようにうずくまり

曇りガラスを2センチくらい開けた。

「 毎日毎日けっこうな御身分だこと 」

母親に幾度となく言われたこのセリフが何気なく自分の口から出てきた。



台所のある一階の居室では隣家の娘がソファに背中をあずけて

大型の女性ファッション誌のページをめくっている。

南向きに面するその部屋には透明なガラスの大きな掃き出し窓があった。

冬季においては太陽のぬくもりを取り入れるために

日が暮れるまでカーテンが閉まることはない。

ふと、娘は立ちあがり流し台の横にある冷蔵庫に向かう。

もともと隣家は老夫婦の二人暮らしだったのだが二年前にご主人がなくなり

奥さんは家を引き払い息子夫婦のいる他県に引っ越して行ったのだ。

それからすぐに今の四人家族が入居した。

娘は大学院生である。明日香とは同年代だ。

いまは冬休みなので家にいることが多い。

冷蔵庫から出したコーラを飲みながら菓子パンを食べている。

明日香は高校卒業後に進学せず仕事を転々としている。

いまは数か月前に採用された古本のチェーン店でアルバイトをしているのだが

元気よくテキパキと作業することを

求める店の方針に馴染めず、このところは頻繁に休んでいる。

出勤の当日になると店に行きたくなくなるのだ。

きょうもこのあと18時から23時30分までシフトが入っているのだが・・・。

( あぁ、休もうかな )

明日香は生まれた時からこの家で暮らしており一人暮らしの経験はない。



仕事は真面目にやるのだが、融通が利かないというのか

内向的で意固地なところがありお客さんや仕事仲間とトラブルになることもあった。

コンビニもやったがこれはとくに機転とスピード感が必要で

じっくりひとつひとつ確認しながら作業をする明日香は

レジにお客さんが来ても品出しに集中したままであることがよくあった。

すぐに店長から嫌われてしまいほどなく辞めてしまった。

それなら、食品工場はどうかと行ってみた。

製品の検品をする流れ作業では

OKなのかNGなのか判断がつきにくいものもあるが瞬時に決めなければならない。

あれこれ考えることに集中しすぎてしまい

ラインを止めてしまうことがたびたびあった。

でも、慣れたら早く作業ができると思ってあまり気にせず毎日通っていた。

ある日、またラインを止めてしまう。

明日香は業を煮やした古株のオバサンたちに一斉に怒鳴られてしまい

連絡も入れずに翌日から工場に行かなくなってしまった。

いわゆるバックレである。






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