道で遭遇

その青年は買い物の主婦が行き交う夕暮れの街角にひとり佇んでいた。

大学生くらいだろうか、地味な恰好だがどこか浮世離れした印象をうける。



そこへ通りかかった激安スーパーの店長は

なにかただならぬオーラを彼から感じて

「すみません。もしよかったら、うちでアルバイトしませんか」

と、思いきって声をかけた。

それは、万一ほかの競合他社のスーパーに採用されてしまったら

大変な損失だと直感したからだった。

青年は店長に顔を向けた。

店長はタブレットをカバンから取り出し、店内の様子を撮影した画像を青年に

見せながら。話しをつづけた。

「これはうちの店なんだけどね、あれ、激安スーパーって知ってるでしょ」

「ええ、南町店なら何度か行ったことありますが・・・」

青年はそのあとに何か言いかけたが、そこで口ごもった。

「おお、なら話がはやい、店はすぐそこだから、立ち話もなんだし事務所で

話をしようじゃない。時間ありますか」

「いや、ちょっと……」

青年は戸惑っている。

「急いでる?・・・どうしたんです。なにも遠慮することはないから。

腹が減ってるんなら事務所でっていうのも無粋か。

よし、そうだ日も暮れたことだし、そこらの居酒屋でのどを湿らしながら」

そう言いながら店長は青年の腕を引っ張り

どこの街にでもある居酒屋チェーンの暖簾をくぐった。

「いらっしゃいませー!」

まだ時間が早いので

奥の座敷に年寄りの四人グループが一組いるだけだった。

店長と青年はカウンター席の後ろにあるテーブル席で向かい合った。

きょうのおすすめのお品書きやグランドメニューを忙しなく見ながら

店長は

「とりあえずビールかな。ビール飲める?」

「いや、ぼくは・・・ウーロン茶を」

「またまた、なにを遠慮してるんだい。若いんだからパーッとやらなきゃ

お勘定はわたしに任せてくれ。なにが食べたい?どんどん好きなのを頼んでくれ」

店長は異様なまでに上機嫌だった。

「時給なんだけどね、1,000円からスタートなんだ」

「誤解されてるようですけど、ぼくはアルバイトを一度もしたことがないんですよ」

「大丈夫、誰にだって初めてはあるんだから、君は見どころがある。

わたしはスーパーの店長を長年やってるから、それがわかるんだよ。あははは」

そこへ飲み物が届いた。

ジョッキをぶつけ合って乾杯をする。

テーブルの下に黒く素早く動く影があったような気がした。

「住まいはこの辺なの?」

店長はお通しの枝豆を早回しの動画のようにむさぼり食いながら青年に訊いた。

「わたしは店の裏にあるマンションなんだけど、

もうこの街に住んで、かれこれ15年くらい経つかな」

「ぼくは、火星なんです」

「――火星って、またずいぶん離れた所に住んでるじゃないか……」



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