外からじゃ内情がわからない会社

先日、取引先の会社に初めて行ったのだが、

そこのオフィスが異様だった。

オフィスにはデスクが過密に配置されて働く人たちも

それに合わせるように座っている。

人口密度が高くて息苦しい状態だった。



みなさん一言もしゃべらない。

黙々とパソコンの画面を凝視して何かを入力している。

聞こえてくるのは無数のキーを叩く音。

あまりに多いので、カタカタとは聞こえず、シャーッといった感じで聞こえてくる。

渓流のせせらぎといった風情はないけど、それに近い。

先方の若い担当者が

「どうです、みんな静かでしょう? ここは、私語が禁止なんですよ」

私語が禁止ってずいぶん厳しい――というか、そんな会社あるのか・・・

刑務所だってもっとマシなんじゃないのか。

小学校のころ、養鶏場に見学に行ったことがあったけど

なんだかそれを思い出してしまった。

「まあ、ほとんどが派遣社員なんですよ」

若い担当者はどこか得意そうな響きをもった口調で言った。

これは、おれの想像だが、

大学を出たけれど何らかの事情で派遣社員として

時給1,500円くらいでやっているのだろう。

それにしても担当者のやつは、まるで自分が支配者にでもなったつもりでいる。

悪い組織の親玉といった感じでおれを案内した。

それにしてもみんな無機質なロボットのようだ。

やがて人工知能にとって代わられるのだろうか。

若い担当者は言う「わたしはこの会社に、ある種の憧れを抱いて入社したんですけど

もう失望しました」

・・・失望しましたと言われてもね。

だいたいそんなこと、なんでおれに言ってくるんだ?

おれはそれについて何もコメントしなかった。

ただきょう来た用件のみの話しに持っていき軌道修正した。

愚痴が始まるとこの男が抱え込んでいる

メンヘラ的な素地が噴出してくるような気配を感じたからだ。

相手がまたボヤキを蒸し返しそうな流れになったので、

「ちょっと、お手洗いをお借りできますか・・・」

流れを断ち切りトイレに向かう。

中に入ると小便器が12あり、個室が5か所もある広く清潔なトイレだ。

ただ、個室の5か所がすべて使用中というのが気になった。

おしっこのついでに、トイレットペーパーで鼻をかもうとしたのだが、これでは仕方がない。

ポケットティッシュで鼻をかんでから、さっきの担当者のところに戻ると、

彼はバツの悪そうな顔をしつつも、何か言わずにおれない様子で

「トイレの個室なんですけど、みんな入ってたでしょう?」

「そういえば、そうだったかもしれません」

おれは何気なく答えた。

「毎年なんですが新入社員はね、ああやって入ったきり出てこなくなるもんなんですよ……」

おれは話には乗らず用件が済んだことだけ伝えると、その会社をあとにした。

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