おれは市議会議員選挙の投票に行くため、
候補者の一覧をネットで確認していた。
『とにかく日本を転覆させるような政党でなければどこでもいい』
というのが、おれの考えだった。
各候補者のホームページ、フェイスブック、ツイッターなどを
閲覧するのだが、どれもこれも良いことばかりが書いてあるだけで
その本性はまるでわからないからだ。
候補者のサイトを閲覧して、まず顔の表情を見る。
目つきだとか・・・
でも、やっぱりわからない。
こんなものはよく作り込まれているから、
日ごろから候補者について調べてみないとわからないだろう。
ということで、おれは候補者選びを切り上げた。
日本を沈没させる特定の政党にだけ入れないで、あとは
なんとなく顔がいいとか、名前がいいとかで選ぶことにした。
顔がいい・・・
といっても、どの候補者もつくり笑顔というか
何枚も写真を撮ってそのなかのベストショットを使うのだろうから、
なんとも、動画を投稿している候補者もいるのでそれは参考になった。
投票日当日。
その投票所は古びた小学校の校舎だった。
会場に着くと、『投票所→』という紙があちこちに張られて
来場した人たちを誘導していた。
黒いスーツを着たスラリと背の高い女性の係員が、冷然とした口調で
「こんにちは、投票所はこちらです」と体育館の入口であいさつをしている。
なかに入ると一角を囲い込むように長机を配置して区画をつくっていた。
票を書き込む机は二十か所ほどで、それぞれとなりのブースが見えないように
ついたてがある。机に向かうと正面には小さな照明がついて手元を照らしてくれる。
鉛筆は三本置いてあった。
書いた文字の濃さと書き味の柔らかさからBの鉛筆だと思われた。
「来たのはいいんだけど、誰に入れようかわからないから・・・」
おれが投票者名を書き込んでいると後ろで声がした。
振り返ると年配のご婦人が、おれの投票用紙をのぞき込んでいる。
すぐに係員二人が駆けつけ、ほかの人が書いているところを見ないようにと注意される。
「ねえ、あなたたちは誰に投票したの?」
すかさず年配女性は係員に質問した。
「そういうことは教えられませんから」
係員は毅然とした口調で告げると、おばさんをおれから離れた机に連れていった。
「誰でもいいってわけにもいかないし、誰がいいかしらね・・・おすすめとかある?」
おばさんはさらに係員に食い下がっている。
「われわれが特定の候補者を勧めるわけにはいきませんから・・・ご自分でお決めください」
係員は熟練したように冷静だった。
おれは投票用紙をアルミ製の投票箱に入れると、足早に会場をあとにした。