お茶くみをするようになった経緯

「なんでわたしばっかりお茶くみやらなきゃいけないの!」

5階の給湯室に行くと、パートさんが独り言を大声で言って憤慨している。

40代後半といったところか、いつもくたびれた芥子色のカーディガンを羽織っているが、

どことなく色気の漂ういい女だった。

ぼくの気配を感じてハッとし、一瞬黙り込み作り笑顔を向けてきた。

「あ、どうもおつかれさまです・・・」

「ずいぶんとご立腹ですね」

なんでだろう、ぼくは余計なことを訊いてしまった。

「どうして自分ばかり損な役回りをさせられるのか」といった不満が

そのときの彼女からあふれていた。

いつもてきぱきと来客用のお茶を用意しているのとは大違いの様子である。

本当はこんなことしたくない、嫌な作業だったのかもしれない。

人は傍から見たらわからないものだ。



花形の営業マンの中には、どうやったら成績が上がるかと考えるんじゃなくて

どうやったら目立つか、上役から評価されるか、そんなことばかり考えてる人がいる。

部署によっては成績で評価されない場合もある。

さも仕事ができるようなフリをしたり、それとなく同僚を貶める発言をして

自分を優位に見せようとしたり・・・

他人を悪く言うことが功を奏して評価されるようになった人は

人を悪く言うのは当たり前という感覚になってしまう。

「出る杭は打たれる」と言われるが

目立つ奴がいたら足を引っ張り、横やりを入れて、蹴落として、

といった人間関係になってしまう。

そして、やがてこの人が実権を握った会社は戦々恐々とした社風になり

ブラック企業への道を歩むことになる。

件のパートさんもお客さんにお茶を出すのは、あなたがやって当たり前という

接し方をされてきた。

はじめのころ率先してやったのかは知らないが、

なにかパートさんがやることを定着させてしまう経緯があったのかもしれない。

他の人の仕事が羨ましい。

あいつにあんな仕事をさせてるなんて

この会社はおかしいんじゃないか・・・

同期が自分より脚光を浴びる仕事をしていると

なんだか落ち着かない。もやもやしていてもたってもいられなくなる。

「おれのほうが、いい大学を出てるのに・・・」などと30歳を越えた今でも

出身校のこだわりを持っていたりする。

パートさんは簿記2級とか他にも資格を持っているようだった。

正社員でも持ってない人のいる中で資格を持っているのは

妬みの対象にされてしまうこともある。

お茶くみを押し付けられて固定化しているのも

そんな職場の人間心理が働いているのかもしれない。

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