サカマキガイからのメッセージ・・

さっきから目は覚めている。

からだは動かないが、意識はある。

起きてはいるのだが、なぜか指一本まげられない。

(なるほど・・これが世にいう金縛りというやつか)

女性警察官の川瀬満里奈(40歳)は、しっかりと認識した。

しかし、自分がなんでこんな状態になったのか

ピンとこなかった。

金縛りは心霊現象ではないとすでに広く世間には認知されている。

満里奈も知識としてわかっていたが、生まれてはじめてということもあり

やはり実際に体験すると奇怪なものであると感じた。

昔の人たちが霊魂や呪いの仕業と考えるのも理解できる気がした。

天井を見つめたまま、満里奈はあせっていた。

頭はハッキリしているのだが思考することが困難な情況。

疲れからきた体調不良が原因とも思えたので

明日にでも病院に行ってみるべきか。

いくらなんでも長いんじゃないだろうかと思えるほど

ふとんの中で身動きがとれないまま時間だけがすぎていく・・。

アナログ式めざまし時計の秒針が、一秒、一秒、

いつもより大きく部屋中に響いていた――。

玄関の外で気配がする。

ドアノブを回す音につづき、ドアを開ける音・・。

ベッドの置いてある六畳の洋間から玄関は見えない。

誰かが室内に入ってきた。

だが依然としてからだはピクリとも動かない。

こっちへ来るのか。

いつのまにだろう

ベッドのわきに現れたのは、男とも女ともつかない

一人の侵入者だった。

若いとも若くないともいえぬ、形容しがたい容貌をしている。

老人の諦めと、子供の天真爛漫さ、それに中年の狡猾さが共存しているとも

感じられたが、それだけの単純な雰囲気ではない。

さっきから目は合っているのだが声は出せなかった。

「突然おじゃましてすみません。

なにも手荒なまねをしようというのじゃないんです」

カタコトの日本語というのか、いささか人工的な声音で

そう言うと侵入者は手に持っていた端末の画面をタップした。

「いったい、その、あなたは・・」

急に声が出るようになった。

といっても自分でもわかるくらい小さな声だ。

「まあ、それを説明するのはとても難しいので、

きょうのところは宇宙人・・とでも申し上げておきましょうか。あははは」

なんとも老獪な笑顔だった。

じつに不気味だ。

コイツはいったい何者なんだ。

満里奈は仕事の関係者をあれこれ思い出してみたが

該当する人物は頭に浮かばなかった。

恨みを買うとしたら部下や後輩だろうか。

それとも――。

「ここには何をしに来たのですか・・」

ささやく程度にしか声の音量はあがらなかった。

「あなたの命を・・と、いきたいところですが、

きょうのところは、その水槽にしておきますか。あははは」

独身の満里奈には特にこれといって熱心な趣味はなかったが、

熱帯魚を小さな水槽で飼っていた。

とくに高価な種類ではなくどこの店にでも売っている

飼育もしやすいものだった。

エサをやるだけで別段の世話というものはやっていない。

最近は飽きていたというのもあるだろう。

完全に部屋の一部と化してふだんは見向きもしなかった。

「またひと休みしてもらいましょうか、ではごきげんよう。あははは」

侵入者にそう言われたような気がすると、手足が動いた。

それになんなく起き上がれもするじゃないか。

「どこに行った・・」

『よし、いつもどおり声も出るぞ』

「おかしいな、どこだ」

室内を見回してみるが、侵入者はいない。

ほかの部屋も荒らされた形跡はなく玄関のドアは施錠されている――。

念のためトイレと風呂場とベランダも警察官らしい慎重さで確認してみたが、

やはり不審な点はどこにもなかった。

「なんだ、やっぱり夢か・・」

安堵の脱力とともに、ほぼ無意識に水槽をのぞき込むと

そこにはサカマキガイなどのスネールが

びっしりと、ひしめき合っていた。

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