スカウトの真贋

「あぁ、占いあんまりいい結果じゃなかったでしょ。ははは」

外に出ると、まるでわたしを待っていたかのように

向かいにある小物雑貨の店で安物のネックレスをいじっていた男が

わたしの横にピッタリついて歩き出した。

かなり馴れ馴れしい。

どうせナンパだろうと思ったから、早歩きで目も合わさず無視していたら、

すこし後ろになった男はかわいらしく咳ばらいをして、まだ封を切っていないアメを

わたしの手に押し込めてきた。

「ちょっとなにするんですか! 」

ふり向いて見上げると、わざとらしいほどの白い歯列が目につく。

もちろん見たことのない顔だったけど、

もしかしたら、売り出したばかりのイケメン俳優だろうか――。

「おれは芸能人だよ」と、バカバカしいほど率直に言われても、

そっくりそのまま信用してしまうほどのオーラが、

その男から放たれていたのは確かだった。



「いいじゃないですか、その眼。ちからがあって……。

スミマセン、申しおくれました。

じつは、ぼく芸能事務所の者なんですけど、

いまちょうど、あなたみたいな人を探していたんですよ」

そういいながら、さっと名刺をわたしの胸元に差し出してきた。

そのまま受け取らずに、しばらく黙って名刺を見つめていると、

「どうでしょう、立ち話もなんですからそこのカフェにでも」

――いくら雨風をしのげるショッピングモールの中とはいえ

甚だしく簡易的ともいえるそのカフェは、

わざわざ、このためだけに突貫工事で用意されたかのようだった。

この男は毎日ここでこんなことをやっているのだろうか……。

慣れているのは仕事だからにしても、段取りがよすぎるのは不気味ですらある。

うっかり口車に乗ったらこのまま、おかしな方向に転落しないとも限らないし。

あちこちで聞いたことがあるのは、芸能事務所のスカウトだっていうから

ついて行くと、じつはキャバクラとか風俗店の勧誘だったり

さらに最悪なのはアダルトビデオの出演を強要されることもあるということ。

じっさい、この男もそんなところだろう。

そういえば、さっきの占い師さん「今年は男運が悪いから注意」って言ってたっけ、

男運って恋愛だけじゃなさそうだしな・・・。

そのまま黙っていると、男はジャケットのポケットから

「これさ、うちの事務所が出してるんだけど」といって小冊子を取り出す。

それには知っている芸能人が表紙を飾っていた。

「――えっとね、再来週なんだけどオーディションがあるんですよ、

くわしいことはこれにも書いてあるから・・・

もし、興味とか質問があったら連絡ください。ははは」

そう言って、小冊子と名刺を渡してきた。

「まあ、たしかに、いま会ったばっかりで、

すぐ話をするのも厳しいからね・・・

お急ぎのところ、お引き止めしちゃってすみませんでした」

神妙な顔つきで礼儀正しく頭をさげて言い終わるなり

「じゃあ」と、すぐ

やさしそうな笑顔になって手を振ると

男は目の前のエスカレーターに乗って素早く駆け下りて行ってしまった。


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