学生時代の先輩に貸した金を返してもらう

令和にもなったことだし、ひとつやつに電話をしてみるか。

いまもむかしも借金の督促は冷酷だ。あんなに楽しかった仲間同士、あんな輝いた日々、

そんな関係だったことには目をつむり、厳粛に取り立てを行い、

おれは貸した金を回収をしなければならない。

情けをかけると、ついだらだらと長引いてしまう。

電話の呼び出し音が10回を超えたところで、留守番電話サービスの音声にかわった。

おれは、自分の名前を告げてから、5万円をすぐに振り込むようにメッセージを入れた。

月の始めになると、毎回おれはこのような電話を学生時代の先輩にしていた。

おれは大学に入学すると、すぐこの先輩がいるサークルに勧誘された。

あれよあれよという間に、新入生歓迎コンパに参加させられ、

正式なメンバーとなってしまった。

当時のおれは今とは違い、いささか優柔不断なところがあったのかもしれない。

先輩にはサークルの活動をいろいろ教わった。

彼は人当りがよく行動力があって女の子たちから人気があった。

そのうえ男たちの妬みをうまくかわしていて、人望まで持っていたのである。

男のおれからしても、惚れ惚れするような人物だったのだ。

そんな先輩が、あるとき授業料が払えなくて困っているという話を持ちかけてきた。

父親が会社でリストラされ、いままでの仕送りとかもなくなるという話だった。

当時のおれは、日ごろ慕っている先輩が窮地に陥ったの知り、

我がことのように焦ってしまった。

おれは実家ぐらしということもあったし、祖父の遺産を分与されていたので預貯金は

学生の身分にしては、かなり潤沢なものであった。

世間知らずなのはもちろんだったが、彼の人間性を信じていたおれは

300万円という金を月々5万円づつ返済するという条件で、簡単に貸してしまったのだ。

当然、先輩は生活費を稼ぐため、サークルを辞めてアルバイトに精を出すようになった。

だが、5万円の返済と家賃や食費などを考えると、そううまくはいかなかった。

あれからお互い社会人となり何年にもなるが、

5万円の振り込みがスムーズにいったのは数えるほどしかない。

いまの先輩はブラック会社に勤めて薄給でこき使われてるようだ。

――留守電を入れてから、数時間が経過した。

いつものことだが、電話が折り返しかかってくることはない……

もう一度、彼の携帯に直接電話をしてみる。

やはり10コールで留守番電話に切り替わってしまうが、おれは諦めない。

2回目、3回目・・・4回目、5回目、6回目、7回目。

ようやく、やつの声が聞こえてきた。

「わりぃ――いま風呂に入ってたからさ・・・ゲホッゲホッ(ガサゴソ)」

「いやぁ、いいんですよ。あいかわらず先輩は風呂好きですね。あははは」

こうして、また、いつものパターンが始まるのであった。

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