体験代行システム

旅行をしたいと思ったら

まずは当社のシステムをご検討ください。

いままでの旅行だと、あなたが直接現地に赴きましたが、

新しいこのシステムでは、当社と契約しているモニターさんが

あなたの旅を、あなたに代わっていたします。

モニターさんが体験した情報は、

電気信号となりWi-Fiであなたの脳と直接つながります。

世界中どこでも、または宇宙の果てでも通信可能な範囲で、

五感を刺激するリアルとほぼ変わらない体験を

ご自宅にいながらにして享受できます。

休日はいつも暗く曇っていて寒かった、おれは毎度のごとくカラスの声に

責め立てられるようにしながら目を覚ます。

窓の外では車や自転車の往来が激しい。

おれはすぐにシャワーを浴びて、待ち合わせの市民センターに行く準備をした。



カバンから外部メモリを取り出して、

体育館に入り、モニターさんの名前を呼んでみた。

モニターさんは更衣室からバスケットボールを持ちジャージ姿であらわれた。

右手左手右手左手と何度か交互にドリブルしたあと、

一瞬集中した表情になって両手でボールを持つと

かなり遠くからだが、バスケットゴールに投げ入れた。

「はい、確かに今の撮りましたから。ではこれを」

おれがポケットから差し出した

のし袋をモニターさんは、ひったくるようにして受け取り

慌ただしく中身をつまみ出すと安堵の表情を浮かべた。

新しい施設や新しい設備の近くにいると、自分もなんだか一新された気分になる。

新しい施設や新しい設備というのは、ただ性能がいいとか、見た目がきれいとか、

古いものを減価償却したからとか、時代の流れだとか、

ただ単にそれだけの理由で導入するものではない。

新しい施設というのは、未来への架け橋、新しい設備というのは、

人々の興味をひくエンターテインメントのことでもあるのです。

どうやら、こいつは本人ではなかったようだ。

さっきの「わかったよ」という言い方は疲れている時の弟の受け答えと

どこか違うものであったし、見た目には背格好もいくぶん異なる・・・

おれは走って行った――贋の弟に本物の弟と入れ替わられてはたまらない。

ところで……おれもモニター契約をしてただろうか……思い出せない……

奥の音楽室へ通じる防音ドアのカギを机の引き出しから持って行こうとした時。

どこから聞こえてくるのか、

微妙に変化した「わかったよ」という、ところどころ音声ともつかない

混濁した意識の断片が流れ込んできた。

こんどは違う代理人が現れたのであろうか。

彼は生身の旅行というものを、一切やらないと決めていた。

たとえ時間やお金が余っていたとしても飛行機に乗ったり、

船旅に出たりということはしない。

過去にも一度もやったことはなかった。

基本的に家にいて寝ながらロボットにアクセスし続ける。

このデータはHDに蓄積できるのでいつでも再生可能だ。

三年前の楽しい香港旅行だって何度でも味わえる。

いまの時代なら当たり前のことだ!

「現実にその場に行く必要性なんてないんですよね」

会社にだって出勤する必要はない、コピーロボットに

行ってもらって自分は家で寝ていてもいい。

夕方近く、ミシュランマンとベイマックスに

追い回された挙句に押しつぶされるという夢から覚めると、

だしぬけに餅が食いたくなった・・・なんというか、渇望感というのか。

なんの必要性があるのかわからないが、すぐに近所のドラッグストアで

サトウの切り餅を買ってくる。

ガスコンロの魚焼きグリルに入れて膨らむまで待つ。

小皿に醤油をなみなみと入れて、そこへ焼き立ての餅を浸す・・・

たしかに醤油の香りが食欲をそそるのは、自分でもわかるのだが、

やはり、これも誰かの需要なのだろうか?

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする