だれのせい? たいくつな人生

 

会社からの帰り道、加藤はいつもの猫カフェに立ち寄った。

30代に入ったばかりで独身、しかし彼女はおろか女友達さえ何年もいなかった。

いわゆる “ 喪男 ” である。



最初の一杯、いわゆる “ またたびウーロン ” を一気に飲み干し、

スナックの冷えすぎた大根のナマスを箸の先でつつきながら、ため息をつく。

「ハァ、おもしろくない生活だな、世の中って、、人生って、、、こんなもんかな」

こうつぶやきながら、またたびウーロンをおかわりする。

冷えすぎた大根のナマスが奥歯に沁みる。

 
歯周病からくる知覚過敏なのだが、加藤は気にしない――。

 

となりに顔なじみの常連がいるときには、

同じことをブツクサ言いいながら話しかける。

そんな相手になるのも、たいていはパッとしない男たちである。

お互い愚痴をこぼし猫を撫でまわし、また愚痴りあう。

会社の人間関係? 上司は、同僚の、後輩が、不愉快だけど、まぁ。

プライベート? パチンコ、10万負けた、風俗店、メンヘラの、チッ!

表立って趣味といえるものもなく。

休みの前はいつもより長居をしてせっかくの休日も、

また猫カフェに来て。

みんな、たいした事ねぇな。 と、加藤は思う。

いいじゃないか、難しいことは。

人間なんてそんなもんだろ。

猫がうだつの上がらない自分を忘れさせるまで

この店にいればいいじゃないか。

ひとりで猫カフェにきてるヤツらなんて、

みんなそんなもんなんだしさ。

これが、加藤の日常だった。20代の半ばあたりから、

もう何年になるだろう、仕事帰りは一日も欠かさず繰り返している。

加藤は二流の私立大学を出て、いまの会社に入った。

入社当時は恋人もいたし、学生時代はスポーツ系の

サークルで活躍してたこともあって、日焼けした顔つきは精悍で、

身体も引き締まり、女性からモテていたのだ。

しかし、いまは見る影もないほど、別人といってもよかった。

大学のころの友人と街ですれちがっても気づかれることはないだろう。

“ 朱に交われば赤くなる ” といわれるが、まさにその通り。

この店の常連はどれもこれも

見た目からして、だらしなくデップリとした赤ら顔で、

なんの努力もせず猫かわいがりで文句をたれているのだから、

仕事もできるとはいえないだろう。



当然、女性にモテるわけがないのだ。

いつのまにか自分がそうなっていることに加藤は無自覚だった。

いつも不平不満ををこぼすだけの人のまわりには、

まともな人は集まらない。

加藤はなぜこうなってしまったのか、なにが不満の原因なのか。

勤め先も名のとおった企業だし、経済的にも

同世代の平均的な男たちより恵まれてるはずである。

それなのに今夜も加藤は、だらしない顔で不満を口にし猫になりきる。

いったい何が彼をそうさせるのか、

わからないまま夜は更け、朝がきて、

そして月日は、とおり過ぎてゆく・・・。



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