胡散臭いセールスマン

ある日の夕方

ここはいつものスーパーマーケット

専業主婦の波木史香(32歳)は夕飯のメニューを考えながら買い物をしていた。

調味料コーナーで七味唐辛子を手に取っていると

スーツ姿の男が近づいてきた。

「どうもこんにちは、お見受けしたところ、なにかお悩みのご様子ですね」

突然、見知らぬ男に声をかけられ史香は気が動顛する。

「いえ、べつに・・・」

「わかりますよ、お姑さんのことであなたは困っている」

「・・・どうして、それを」

「いえ、お顔に書いてありますから、あははは」

史香はうつむいた。



「じつはですね、そのお姑さんと関わらなくする方法があるのですが」

「あの、そういうことは間に合ってますので」

史香は胡散臭げなヤツだと思い、手を振りながら男の話を遮る。

そして、すぐその場を辞去しようと買い物カートを男との間に挟むかたちで

方向転換すると、そのままレジへ足早に向かった。

まだ買い物の途中だが別な店に寄ればいい、そう考えながら会計を済ませ

店の外へ出る。

店の裏手にある自転車置き場に行くと、男が待っていた――。



「いい自転車ですね、かごも大きくて電動アシストつき、登録番号は4871・・・」

そう言いながら男はトランシーバーとも違う

見慣れない端末をカバンから取り出し番号を打ち込んだ。

「ほほう、N市 河北町 三丁目・・・」

史香はそれが自宅の住所を解析できることに恐怖を感じた。

ここで男を振り切って逃げおおせたとしても

自宅に押し掛けられてはたまらない。

ひとまず話だけでも聞いたほうが賢明だと考えた。

「あの、それで、ご用件はなんですか」

「例えば、これなんですがね、一見、ただの旨味調味料に見えますが

これには、ある成分が含まれている」

「まさか・・・それは」

「いえ、健康にはなんの影響もないんですよ。

詳しい作用のメカニズムについては、わたしもわかりませんが

ただ、これを摂取し続けると、周りの人間関係に無関心になる傾向がある。

つまり奥さん、あなたは今後、

お姑さんに煩わされずに済む可能性があるというわけです」

「いったい、どんな成分なんですか」

「それに関してもわたしはわかりません。

また、わかっていたとしても企業秘密なので申し上げることはできませんが・・・」

男の話はもっともなようだったが

史香は自分が愚問を投げかけたとは思わなかった。

「そんなことよりも、これは約一週間を目安に効果があらわれます」

男は自信に満ち溢れた笑顔でそう言いきった。

値段を訊くと普通の旨味調味料の十倍ほどの値段である。

分量からすれば高価にも思えたが買えない金額ではない。

それに本当に効果があるとすれば、格安ともいえる。

手渡された小瓶を見つめ史香はしばらく逡巡していたが

男はそれも織り込み済みとばかりに黙って待っていた。



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