悪い知らせを予知する能力

すこし霞がかった春らしい日差し。

その日は、外を歩いていると暑いくらいで、

ジャケットを脱いでシャツ一枚くらいがちょうどよかった。

昼休み、いつもと違うコンビニに買い物に出たのだが、店内に入ると

まず気づくのがニオイだ。

このコンビニは如何にもコンビニといったニオイがするのだ。

ニオイの元はおでんが大半だろうが、これぞコンビニといった感じだ。

太った男性の店員が如何にも気が利かなそうな要領でレジを打っている。

ニオイはいろいろなものを想起させた。

何年も前の思い出、あの日、あの時、あの場所でのことを……



おれは、ふと以前勤めていた会社の藤岡のことを思い出した。

彼とは同年代ということもあり、たまに二人で飲みに行ったりもしたのだが、

おれが退職したと同時に付き合いはなくなった。

ふだんもまったく思い出すということもなく、

おれの中では忘れられた存在と化していた。

と、その時、おれのスマホが着信音を鳴らした。

ポケットから出して画面を見ると藤岡じゃないか……

ギクリとした。

なぜかすぐに応答しようとしないで、一旦店の外に足早に出る。

麗らかな陽光に照らされながら、

なおも怒涛の如く鳴り続けるスマホを見つめ、

おれは何故か不安な気持ちになってしまった。

やがて着信音は鳴り止み、留守電の録音に切り替わったが、

藤岡はすぐに電話を切ったようだった。

弁当と飲み物を買って、会社に戻ってから

藤岡にショートメールをした。

「さっきは電話に出れなくすまん。また改めて電話します」

昼休みが終わってからしばらく、面倒な客に関連する資料を目にしていた。

――会社の電話が鳴った。

おれの頭には、瞬間的に、『その面倒な客……」が思い浮かんだ。

誰かが電話を取り、5秒後におれのところに回って来た。

やはり、資料の面倒な客であった。

これらは一例であるが、

最近は電話やメールに限ってなら予知できる事が多くなってきた。

社を訪ねてくる客の中には乱暴な歩きかたをする人もいる。

そういった人はトラブルに発展することがある。

一見ちゃんとしたスーツ姿で紳士的な雰囲気だが、意に沿わない事態になると

急転直下の変貌ぶりをみせる。

歩き方で人となりがわかる――

しかし、こういうのは予知能力とは言わない。

経験を積めば誰でもわかってくるものだろう。

電話の話だが、おれが直感で事前にわかる相手は、

たいていの場合トラブルメーカーだ。

こういう相手は、電話では居丈高なふるまいでも

いざ直接会って話をすると意外とまともな常識人が多いので

交渉が面倒なのだ。

しかし社に訪ねて来て、いきなり面と向かって

「バカヤロー、コノヤロー」と大声でまくし立てるのは

完全にいかれたクレーマーなので、ある意味で対応は簡単なのだ。

警備員を呼んであとは苦情処理係に任せるだけだから。

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