やっぱり男は逃げ場がない

レギュラー番組を持てば安泰というのは過去の話

おれの悪い癖は、金が貯まると引退したい病にかかるということだった。

金のないときは、「どんな事でもやりますから仕事をください」と、

土下座もせんばかりに

あちこちの制作会社をしらみつぶしに売り込んで回るのに。

少しでも金が入れば、バラエティ番組に出ている

タレントのことを志の低いくだらないヤツらと軽蔑のまなざしでみたりする。

しかし、ひとたび仕事が途絶えてしばらくすると、

「そろそろテレビにでなきゃ、まずいな」という自分がいるのだ。

当たり前の話なのだが、この世で生きていくにはやっぱり金が必要なのだ。

自分では認めたくはないが、おれはいまいち、

そのことがわかってないのかもしれない。

おれは自分の所属するVカンパニーの社長に直談判しに行った。

「よぉ! どうしたいきなり、ずいぶん久しぶりじゃないか、元気か?!」

「どうも、社長、ごぶさたしております、じつは・・・」

あらいざらい今のおれの現状を話してみた。



「いやいや、お前も知ってると思うが、いまはもうネット動画の時代なんだ」

「たしかにテレビに代わるところもあるかもしれませんが、

ぼくの芸はユーチューバーよりもクオリティには自信があります」

「そうだ、それはわかってる、しかし視聴者はそれを求めていないんだ」

そして、社長は慣れたように言い放った。

「もう、テレビの時代は終わったんだよ、これからはYouTubeの時代だな、

しかし、こいつらなんかどうだか……。

たいしておもしろくもないくせに何百万回と再生されてるだろ」

そういってパソコンの画面をおれに見せた――。

「たしかにそうですね」

「だから、お前もユーチューバーになって自分で稼いだらいい。

もうおれも年だし

そろそろこの業界からも引退しようかと思っていたところだ」

「そんな……社長がいなくなったら、ぼくは生きていけませんよ」

「しかたがないだろ、時代の流れだ、お前はまだ若いんだし、

あとは自分で道を切り開いてくれ」

社長はあっさりとしていた、もう密かに廃業の準備を進めているかのようだ。

社屋から出ると路地から猫が出てきてあくびをした。

「ああ、おれも猫になりたいな」

あてもなく、しばらく歩くと年配の女性が前から歩いてきて、

おれとすれ違う瞬間あくびをした。

「ああ、おれも女になりたいな」

女はいいよな、結婚すれば安泰じゃないか。

自分の姉や知人がそうだったのでわかるのだが、

女は仕事で行き詰ったりしても結婚すればなんとかなってしまうような気がする。

だけど男にはそういった選択肢がないのが、つらいところだ。


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