靖國ラーメン

「うぇらっしゃぁぁぁせぇ」

いきなり大声で怒鳴られた。

ぼくは最近、店でラーメンを食べることはないんだけど

先日はたまたま所用で行った街で久しぶりに食べてみました。

その近辺はラーメン店が軒を連ねる激戦区というのもあったからだ。

しばらく探索していると、

遠くからでもすぐわかるほど活気づいた一軒が気になった。

10人ほどの行列ができている。 どうしようか?

並ぶ時間はあったけど、外は寒いし

これ以上ほかに店えらびするのも面倒なので、もうほとんど

なげやりな感じで隣にあるガラガラの店に入ってしまった。

客は、ぼくの他 2人。

カウンターごしの厨房には黒いトレーナーを着た男性店員3人がいた。

各々、頭には白いタオルを巻いている。

大勝軒の創業者を模倣した一般的なスタイルである。

食券を渡すとプロレスラー風の店員が

「せやぁ、しょうゆいっちょぉぉぉぉ!」と叫んだ。

すると店員 2人が同時に「うをっしょぉぉぉぉ」とプロレスラーより小さい声で応じる。

気合じゅうぶん、やる気満々といったふうではない。

そこには、いくばくかの反抗的態度がみてとれた。

奥に 4人がけのテーブル席が 2つあるが、高いスツールのカウンター席に座る。

ラーメンを待つ間にスマホで帰りの電車の時刻表をみようとすると

いやにやさし気な声色でプロレスラーが、

「はぁい、しょうゆね」と、いった。

もう出てきたのである。

え? はやい・・・ 30秒もかからなかったんじゃないか?

ほかのお客さんと間違えたのではないようだ。

見ると先客 2人は麺をすすっている。

時刻は午後1時を過ぎていたが、まだ昼めし時。

では、客がくることを見越して何杯か作り置きしてあるのだろうか?

たしか、作ってる気配はなかったような。いや、定かではない。

さりげなく厨房内をのぞき込んでみる。

だが、それらしきラーメンはどこにも見当たらなかった・・・。

店員は 3人ともコワモテな風貌だった。

この店に限らずであるが雑誌とかで紹介されている

一部の新進気鋭のラーメン店には、

どこかDQNぽいというか、ガラの悪い店員がいたりする。

ほかの飲食業では、こんな連中は見かけたことがない。

なにかしらの粗暴な前科があるといわれたら、

そりゃそうだろうなと思えてくるほどだ。

さっきからどことなく殺伐とした雰囲気が漂っている。

はやく食べてさっさとこの店を出よう。

スッコンコンコンコンコ スッコンコンコンコンコンコ

小さい声で応じてた金髪の 1人が鮮やかな手つきで

リズミカルに長ネギを刻んでいる。

ぼくのラーメンが来てから、3人の店員たちは終始無言だった。

テレビや有線放送はない。

長ネギとラーメンをすする音、あとは換気扇とお湯の沸く音・・・。

なんの前ぶれもなく1人の客がサウナから出るようにムックリと立ちあがり出口に向かう。

しまった。 ラーメンを味わってる場合じゃないってことを忘れてた。

「 ありゃぁやしたぁぁぁぁ! 」 

突如、沈黙をつきやぶり3人が叫ぶ。

あと 1人がゴールしたらもうおしまいだぞ。

だれか、だれでもいい。

店に入ってきてくれ。

たのむ・・・。

カチッ

もう 1人の客は会社から貸与されたと思われるガラケーを取り出した。

メールかなにかをチェックしているのだろうか。

しめた、いまのうちだ! ぼくは物凄い勢いで麺をすすりはじめた。

熱いからスープは飲まない。 猫舌でなくとも当然だろう。

こっちはそんなもの飲んでいるヒマなどないんだ!

終わったなら確認せよ・・・ ふぅ、麺もメンマも 1本もありません。

はは、ならば完了だ。 さて、お勘定は? いや、食券だから大丈夫です。

さぁ、だったらさっきの客にならって

まずは、息をととのえてから音もなく立ちあがろうぜ。

ぼくは、つとめて平静をよそおい何くわぬ顔で出口へと・・・。

いったい君はなにをやっているんだ!

なにもやましいことはないじゃないか。

葛藤が渦巻く。

ステンレスの把手がついたガラス戸を

いかにも慣れたふうな手つきで半分だけ開けてから

店内に吸いこまれる寒風に逆らってヒュゥッと飛びだす。

ドアヒンジはなごり惜しそうに「 キュィッ 」 と鳴き声をもらした。

その声で気づいたのかガラス戸ごしに「 ありゃぁやしたぁぁぁぁ! 」と、 

追撃するような3人のミュートされた叫び声は

小さく小さく・・・やがて

真冬の弱い太陽を浴びながら霧消していった。

隣の人気店の行列はまだ絶えていない。

薄汚れた赤いダウンジャケット着て、しんがりをつとめていた

近所の住民らしきオヤジはもはや最前線にいる。

いままさに敵陣にのりこまんとしているようだった。

すれ違いざま視線が合った。

「 靖國で会おう・・・ 」

彼の目は英霊となった戦友を見おくるように語りかけていた。

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